飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

とびだせどうぶつの森のデータが消えた話

いつものようにニンテンドー3DSを立ち上げ、とび森を起動させると、上のタイトル画面に見知らぬどうぶつが歩いている。
引っ越してきたのかしら、最近やさおとお別れしたしね、と思ってよく見ると、下画面に「つづきから」の選択肢がない。
私のカナリヤ村はなくなっていた。

原因に心当たりがないでもない。
乱暴に扱ったから、消えてしまったのだろう。
ありゃまあと思う。
とび森 データ 復旧」で検索して、めぼしい情報がないのを確認する。
仕方ないね。

――はて、と考える。
一年近く、毎日のように遊んでいたゲームのデータが消えたのだ。
それも箱庭系の、コツコツと自分好みの世界を作るタイプのゲームである。
ショックかと聞かれたら、ショックである。
「やっちゃったorz」というメールを家人に送ったし。
悲しいかと聞かれたら、悲しい……かな、という気もする。

もっと悲しむべきではないのか。
悲しくなりそうなことを並べてみる。
村を作って356日目だった。
もうすぐ一年経つはずだった。
村長としてはある程度まで開発をやりきっていた。
果樹園にはおそらく全種類のくだものが実っていた。
一人の男を招き、探偵のふりをした庭師という設定を与えた。彼は夜にしか外に出なかった。
もう一人の男にはホテルの建設を依頼し、部屋数も増えてきたところだった。
ひつじ優遇政策を謳ったカナリヤ村には、5頭のひつじがいた。
モヘア、フリル、ジュペッティ、メリヤス、ウェンディ。
ガリガリとボンは越してきたばかりだった。
シュバルツとふくこ、それにモヘアは私が来る前からの住民で、何度も出て行こうとしたのを引き止めた。

全て消えてしまったのだ、と自分に駄目押しする。
そうね、切ないね、と私が答える。
激しい悔恨がお前を襲わないか、と内なる声が尋ねる。
まあ、失敗しましたねぇ、と頬をかく。
頭を抱えてのたうちまわりたくはならないのだ。

だからと言って、そんな些細なことのためにこの一年どれだけの時間を費やしたのだ、という強い後悔があるわけでもない。
楽しかったね、消えちゃったのはもったいなかったね、またやろう。
好きなゲームなのだ。それでいいではないか。
そう、ゲームは本当におもしろくて、引っかかるのは私の心だけなのだ。

どうにもあらゆる感動が薄くはないか。
一年間遊んできたデータが、作ってきた村が消えちゃったんだぞ。
もっと大きな感情が去来してもいいんじゃないか。
このままだと、あ、自動販売機に10円取り損ねて置いてきちゃった、というのと同じような出来事で終わってしまうぞ。
明日は覚えていても、来週にはすっかり忘れてしまうぞ。

この記事も、特段書かねばとは思わなかったのだ。
ただ、このままだとこの気持ちを忘れてしまうなぁと思って、一応書いたのだ。
でも、この文章を投稿せずに消去したとしても、やっぱりあんまりショックでもないし、せっかく書いたのに、という気持ちもすぐに忘れてしまうだろう。

どうも気持ちが無なのだ。
何事にも、あ、そう、という思いになる。
「私が近々死んだら、その瞬間はきっと『しまった!』と思っているからね」と人には伝えてある。
あまりちゃんと聞いてくれていなかったようだ。
それも仕方ないね。