飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

当日のこと(1) エイトメロディーズ

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 珍しく文学フリマ当日のレポートを書く気になっている。3回に分けて書く。途中で飽きたらやめるかもしれない。申し訳ないけれど、本の感想はほとんどないと思う。イベントの感想でさえないかもしれない。要はいつも通りの日記である。

 

 会場に入ってすぐ、自分の迂闊さに気が付いた。印刷所を介さない宅配搬入は、今回が初めてだった。その荷物が並んでいる場所を見ると、遠くからでもひときわ目立つ、黄色い箱が1つある。明らかに、我が家から発送した私の本だ。

 周りの箱は、どれもこれもクラフト地である。印刷所の名前が入ったものが多い。少なくとも、太字で《有田みかん》と印字されたまっ黄っ黄の箱で荷物を送った人はいなかった。そんなことまで事前には気が回らなかったのだ。

 しまった、このままでは、机の足元に黄色い《有田みかん》を置いたまま、一日を過ごさなくてはならない。しかも《この甘さ王者の貫録》である。やむなし、と覚悟したところで気が付いた。今回、自分のサークルはア列に配置されていた。周りで準備をしているサークルさんを見ると、壁際に荷物を固めて置いている。なるほどこういうことができるのか、だから皆、壁側に配置されたがるのか、とようやくわかった。ありがたく、黄色い箱は背後の壁際に置かせてもらうことにした。さらに上着もかぶせておいた。

 

 自分の字は嫌いではない。しかし、人前でペンを握るときなど、緊張している場合は別だ。満足のいく字が書けたためしがない。

  なので今回は、値札から見本誌ラベルに至るまで、あらかじめ印字したものを用意しておいた。ところが、いざブース設営を進めてみると、一つ用意しなければならない案内書きを忘れていたことに気が付いた。仕方がない。ボールペンを手に取って、適当な紙に告知文を書く。それほど寒いわけではないのに、手が震えた。文字のバランスから何から、不安定なものになってしまった。書き直してもうまくいく気がしない。泣く泣くそれを掲示した。

 

 在庫が多いこともあり、それほど凝ったブースでもないくせに、準備することはいろいろある。新刊に致命的な落丁・乱丁がないか確認し、帯を巻き、本を並べと作業をしているうちに一般入場時間は迫る。焦るとますます手元がおぼつかなくなる。

 そのとき、聞き覚えのあるメロディが耳に入った。近くにいる学生さんが、口笛を吹き始めたのだ。それはゲーム「MOTHER」の音楽だった。それが流れているゲーム画面は思い浮かぶが、曲の題が思い出せない。後で調べると「エイトメロディーズ」だった。口笛独特の不安定な音程がよく合っていた。

 まもなく開場のアナウンスが入り、一般入場が始まった。拍手が収まったとき、そういえばこのイベントにはBGMがないんだったな、と思い出した。