飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

当日のこと(2-1) 正解/不正解・合格/不合格

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 開会するなり暇を持て余す。そのために、本に帯を巻く仕事を多めに残しておいた。ブースの中でこのくらいの手作業をやっていると、いい具合に間が持つ。人が来たらすぐ手を止めることもできる。

 お隣になった narrative life の芦葉さんは、今回初めて出展側で参加されたという。やはり「時間ができると思って、その間に」とおっしゃり、机の上に大きな消しゴムとカッター板などの道具を準備なさった。

「消しゴムハンコを作ります」

「あ、そういうことをやっていらっしゃるんですか」

「いえ、作るのは今日が初めてです」

 おもしろい方でいらっしゃる。

 

 会場でのふるまいは、「私が一般来場者だったらそうしてほしい」と思う姿にしたい。だから手仕事をしたり、カタログをぱらぱらめくったりしている。ただ、店番としては行儀のいいことではないかもしれないし、人によっては「やる気がない」と思われても仕方がない。

 学生さんのグループが、ブースの前を通る方に呼びかけをしていらっしゃった。ところが、ブースにやって来た方に「この本にはどんな話が入っているのですか?」と聞かれると、しどろもどろになってしまう。後になって「せっかく来てもらっても、ちゃんと内容が説明できないと駄目だなぁ」としみじみ反省しているのを、近くで勝手にふむふむと思いながら聞いていた。なるほど、合同誌では「どんな話?」と聞かれて簡潔に答えるのも易しくないだろう。

 私の方は大抵個人誌だから、内容を質問されたら、サイトに載せた紹介文のようなことを答えれば良い。しかし何しろ緊張しいなので、「人のふりをするのが得意な兄弟が、いろいろな事件に巻き込まれる話です!」というだけの言葉がすらすらと出てこない。焦った末、「モノマネの得意な兄弟が」と言ってしまった。これではコロッケさんみたいになってしまう。そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。

 

 積極的に「読んでください!」とPRするには、呼び込みよりトークの力が物を言いそうだ。その点、絶対移動中さんのところは抜群だった。そうして手に入れた『絶対移動中 vol.12』をブースで読んで、「世の中にこんなに小説のうまい人がたくさんいるなら、私なんていらないじゃないか」と落ち込んだ。原稿明けでナーバスだったのだから、家に帰って落ち着いてから読めばよかったのにと思う。一緒にもらった『コワカエ』は、特集が私好みだったこともあり、さらに打ちのめされた。もう今日は店じまいして家に帰ろうかなと思った。

 それから、@RayShibusawa の渋澤さんも喋りが達者でいらっしゃった。割引につられて、最初から狙っていた『甘いものは別冊 1』の他に、前回の文学フリマからタイトルに聞き覚えのあった『バンドマンとは付き合うな』を購入した。また凹むのなら会場で読まなければいいようなものだが、『甘いものは別冊 1』のデザインが何だか手元に持っておきたくなるようなものだったので、ついブースの中で最初の2編を読んでしまった。

 そこに、渋澤さんが来てくださった。私はつい「読みました」と言ってしまった。いや、「読みました」はいいのだが、それに続けてうまいこと感想を言えるほど器用ではない。わたわたと変なことを口走った気がする。レビューには全くならないが、あのときうまく言えなかったことをせめて書いておく。私はブルボンが好きだ。チョコレートならシルベーヌがいい。渋澤さんはガルボを愛しすぎている。

 

 正解や不正解、合格や不合格ということにこだわる性格だ。「あのとき、こうしていれば、ああしていなければ」と悔やむことが多い。テンションが上がるとなおさら、失言をしてしまう。たぶん相手は特に覚えてもいないのだろうが、自分が1人で気にしてしまうのだ。

 よく来てくださる方に「ありがとうございます」と、好きな人に「好きです」と、そう伝えるだけのことが、どうしてこんなに難しい。頭の中でイメージすれば、何てことはないのに。いつもいつも後になってから「どう対応したら正解だったのだろう?」と考える。

 

 さて、既に時系列が前後しているが、ここが私にとっての1つのハイライトだ。

 《高村暦》がやって来た。