飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

針を付けろ、バナナを貼れ。第二十五回文学フリマ東京に出展しました

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編集が担う役割の一つは作品から不要な部分を削ることなので、私は著者二人がおしゃれなカフェでケーキを頼むシーンをカットした。だっていらないと思うだろう、本の著者がケーキを食べに行ったエピソードなんて。しかし後になってこれを知った人から「その場面は、入れるべきです」と力説されてしまった。そんなことを言われても、本はとっくに印刷されてできあがっている。まことに編集は難しい。

第二十五回文学フリマ東京に【ウ-24】ナタリーの家のヒトリの客(小説│ホラー・怪奇)として参加しました。津和野ヒトリさんとの合同出展でした。

『見えない聞こえない曲がりにくい』という本を二人で作って頒布した。目の前で自分達の作った本が手に取られているのを見ることになるので、自然と相談が始まる。私達の本の不親切さ*1はほとんどが意図してそうしたものだけれど、実際に戸惑っている方に、どういうタイミングでお声かけするのがいいだろうか(あるいは何も言わないほうがいいだろうか)とか。来場者目線のつもりでブースの設営をいろいろ工夫してみても、視線や動線のコントロールはなかなか思うようにいかないね、とか。

それから、この本はリバーシブル、いわば両A面の本なので、通常の本でいう表紙だけでなく裏表紙にあたる面も見てほしい。しかし、見本誌コーナーは平置きなので、表紙の側しか見せることができない。両面を見せるために、仮に本を伏せておいたとしても、親切な人の手ですぐ元に戻されてしまうだろう。手に取った本を確実に裏返して見てもらうには、どうすればいいか。

例えば、本の裏側にごく短い針のようなものを付けておいたらどうだろう。本を手に取ったら、指先がチクッとする。そうすれば人は、とっさに本を裏返すだろう。これで裏表紙の側も見てもらえる可能性が高くなる。

一応言っておくと、こんなこと実際にはやりゃしない。他にも、裏側をザラザラさせる、フワフワさせる、ベタベタさせるといったやり方が考えられるが、特にベタベタあたりはアウトだろう。マジックテープの片面を付けておくくらいが実現可能な線か。あ、ヒンヤリという手はあるな。周りを濡らさず汚さないやり方ができるなら、ありではないか。

この話をすると「そもそも、本を手に取ってもらわなくては、仮に針を付けても意味がない」と指摘があった。確かに、自分達は油断すると地味なほう地味なほうへ向かいがちである。「本のテイストに合わないくらい派手ではないか」と悩みながら幅広な黄色のオビを見本誌に巻いておいたのだが、いやいや、見本誌コーナーで見たら全然目立ち過ぎるなんてことはなかった*2

これも例えばの話だが、私がぱっと思いついたのはバナナを貼っておくことで、高さが出るし、色が黄色で目立つし、何よりつかみたくなる形をしている。「いや、なまものでは却って誰も手を出さないだろう」*3とも言われ、それはまったくその通りなので、模型でいいと思う。開場中に熟して匂いが強くなっても迷惑だろうから、むしろそのほうがいい。「え、本物? 違うよね?」くらいの完成度のバナナが貼ってあって、裏側がチクッとする本なら、目論見通り両面を見てもらえるはずだ。

「作品で殴る」という言い方がある。殴ってしまえば簡単だけど、殴るのは良くないことだから、代わりに言葉を使ったり絵を描いたり音楽に合わせて踊ったりする。そんな無茶なというしかない代替行為だが、なんと誰もがそれをやっている。それが表現ということだ。私達も、針とバナナさえあれば済むところを、それらを使わずに何とか切り抜けた。おかげさまでたくさんの人に本を見てもらうことができ、嬉しいね嬉しいねと言い合った。針もバナナも使わなくてよかった。ありがとうございました。通販は行う予定で準備中です。

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これまでとこれからの更新(予定)

*1:本のタイトルが分かりにくい、本の構成を勘違いされやすい、短編集なのに目次がない、著者名がなかなか出てこないなど。

*2:目についたのは、非常に厚い本>非常に面積の大きな本>Twitterなどでタイトルに見覚えのある本>装丁が凝っていたり表紙のデザインが良かったりする本の順だった。作者名やブース番号であえて探す本はむしろ見つけにくかった。

*3:これもわざわざ書くのは野暮なことだが、一応出店要項で禁止事項を参照すると、「販売・配布禁止物」の欄に「食品衛生法や条例で『食料品等販売業』許可などを要する飲食物」とあった。若干意味合いが違うように思うし、なまもの禁止など「表紙に生のバナナを貼ったデザインの本はいけない」と直接的に読み取れる項目は見つからなかった(類する内容があったらすみません)が、仮にそんな本を置こうとしたら少なくとも指摘が入るだろうし、大体その辺を争ってまで表紙にバナナを貼りたいわけではないのだ。