飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

あとまえ(14) 『劇団パピヨンの軌跡』

大学時代から私の小説を読んでくれている人に、
「どうして同じキャラクターでシリーズ物を書かないの」と聞かれた。
「答えは長くなるよ」と意気込んだのに、「短めにお願い」とつれないので、
仕方がない、簡潔に「登場人物に愛着がないから」と答えた。

これは北村薫が本格推理小説について述べた言葉をほとんど流用したものだけれど、
「小説において、登場人物は登場人形と化し、
 物語のために生まれ、物語のために死ねばいい」
というのが、私の基本的なスタンスだと言ってしまっていい。
そうやってこれまで、短い小説を書いてきた。

ところが、ふと長めの小説を書こうとしたときに、行き詰まった。
私の頭では、10,000字、20,000字を越えるような物語の構築は困難だったのだ。
長い物語を、時間をかけて一所懸命考える手もある。
ただ、まずは一度、キャラクタの手を借りてみよう、試してみようと思った。

そのおかげで、小説書きの人からはよく聞くが、
自分にとってはほとんど初めての経験をした。
いわゆる、「キャラの暴走」というやつだ。
その暴走は、自分の考えていた筋よりもよくできていたのでそのまま採用し、
代わりに物語には必要だったはずの5行を削らざるを得なくなった。
そういうこともある。マイナス面も、ありそうだ。
今は、おもしろいね、と言っておこう。

だから『劇団パピヨンの軌跡』は、長編へのステップとして書いた連作短編集だ。
同じキャラクターを登場させた、とりあえずは3編。
あと3編を『劇団パピヨンの顛末』としてまとめて、完結させる。
ただし1冊ごとに独立した内容にはしているつもりである。

しかし、あまり長くはならなかったね。
1編7,500字程度。最終的に6編まとまったとしても45,000字だから、
大して分量があるわけではない。
150,000字くらいの長編小説は、いつになったらできることやら。

 

 ※この記事は過去のダイアリーから転載したものです。