飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

abnop

 長く残したいわけではなく、一時使うためのメモがある。ネット通販の支払いをするためにコンビニのレジで伝える注文番号だったり、イベントが行われる会場の名前だったり。そういうものは、役目が終わったら消してしまう。また、終わったらすぐに消さないと、後になって「これは何だったか、まだ使うものだっただろうか」と悩むことになってしまう。
 スマホのメモアプリに"abnop"と書き残されていた。私が自分で入力したのだろう。さて、これが何だったか。どうもピンと来ない。一応辞書も引いてみたが、そんな単語は少なくとも英語にはない。
 メモの位置からして、どうもこれは、つい最近打ったもののようなのである。最近どころか、昨晩寝る前くらいだろう。寝る前に何を考えていたか。翌日のご飯のことか、土曜日の消防設備点検のことか。それとも物思いにでも耽っていたか。
 待てよ、と思う。物思いに沈むと眠れなくなる性質だ。そういうとき、いつも自分はどうするか。そういうときは、枕元の――
 ポンと膝を打った。思い出したのである。これはアンノーンのことだった。
 枕元に置いてあるゲーム機を手に取って、プレイしている内に寝落ちするというのが、最近多いパターンなのだ。今やっているゲームがポケモンである。
 それで昨晩、もうだいぶ重たい瞼をこすりながら、私はアンノーンというポケモンが群生している洞窟に辿り着いていた。このアンノーンというのはちょっと特殊なモンスターで、姿がアルファベットの形をしているのだ。調べると、AからZまでに、!と?を加えた28種類があるようだ。
 そこで眠たい私は、コンプリートを目論んだというわけだ。確認のために、ゲームを起動してボックスの中を確認した。アンノーンのために設けたボックスには、彼らが姿の順に整列しており、抜けているのはabnopの5種類だけだった。
 これで解決だ。しかし眠りしなの自分がよくも根気よく23種類までポケモンを捕まえ続けたものである。せっかくなので、同じ洞窟でもう少し探してみた。aとbが見つかったので、現在、残りはnopの3体になっている。