飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

サドルの上のバッタ


家庭菜園のために、家にあるもので作れるという防虫スプレーを用意した。
食用酢にトウガラシとニンニクを漬け込んで、水で希釈したものを撒くのだ。においが効くらしい。
人間が普通に食べるようなものが忌避剤にもなるというのは、薬も摂り過ぎれば毒になるというやつだろうか、と最初は考えた。
今は、水は人を生かすことも殺すこともできる、という話にどちらかといえば近いような気がしている。

虫は苦手だが、種類にもよる。
人助けをしたことがある。公共の駐輪場に行くと、1台の自転車の前に、腰の引けた様子できょろきょろしている人がいた。
声をかけると、サドルにバッタが止まったという。その人はバッタを触れないということで、乗れなくなって困っていたのだ。
では私がそのバッタを逃がしてみせましょうと、そっと手を伸ばしたところ、バッタは同じ自転車のカゴに跳び移ってしまった。その背中を今度こそつかみ、近くの草むらに放ってやった。
お礼を言われ、私は自分の自転車に乗って、先に駐輪場から出た。
嫌なものがどれだけ嫌かというのは人による。
あの人が、苦手なものがさっきまで止まっていたサドルでも抵抗なく座れる感性の持ち主であれば、せめてもの幸いなのだが。