飛び降りていないことの証明

つつがなく世渡りさえこなせれば

ケーキ屋さん


将来なりたいものを尋ねられたとき、答えに困ったらとりあえず口にするための便宜的な職業が「ケーキ屋さん」だと、小さな頃は思っていた。
なぜなら、自分はケーキ屋さんになりたいと思ったことが全くなかったからだ。そして自分が考えないことは他の人間も当然考えていないだろうという、ごく限られた視野しか持たない子供だった。

今になって気が付くと、周りにはケーキ屋さんになった人が意外に大勢いる。
ケーキを作る人もいれば、ケーキを売る人もいる。

いずれは頭を丸めて実家の寺を継ぐと言っていた友人も、パティシエになってイタリアへ飛んだ。

ケーキ屋さんというのは、本当になりたいものだったかもしれなくて、実際になれるかもしれないものだったのだ。知っているか、子供たち。知っていたのか、あの頃の皆。